チェーンの贅沢

元旦の午後、上越道下りの軽井沢から先はチェーン規制されていた。チェーン装着場に駐車している私たちの横を、スタッドレス装着者が走り抜けていった。もう世の中の大半のクルマはスタッドレスという気がした。
いま乗っているクルマを7年前に買ったとき、そのタイヤに合わせて購入して以来、一度も使っていないチェーンを15分かかって装着した。いかにも真新しく、汚れひとつない金属とプラスチックの輝きが、今回の走行で失われてしまうことは、ちょっと残念な気がした。
走り出すとゴロゴロにぎやかな音がするので、装着方法を間違えたかなと一瞬思った。しかし装着場の雪のない路面をこんなプラスチックと金属のスパイクで走るのだから、音のしないはずがない。高速道路に進入すると走行車線を走っているのはわずかな台数で、ほぼすべて追い越し車線を走っていた。走行車線はチェーン装着車専用道路という感じだった。そこを時速50キロから60キロで走った。
今回、上田までの間にチェーン規制の必要性があると思えたのはわずかに2カ所。軽井沢近辺には、トンネルとトンネルの切れ目で路面の凍結している場所が確かにあった。もっとも、それは走行車線側であって、追い越し車線側はすっかりドライ路面になっていたし、スタッドレス車は何の迷いもなくそこを通過していた。そんなクルマたちの後塵を拝する我が身に、はじめのうちはすこし苛立った。そう、いつものおれなら...
そんな気分が変わったのは、佐久を過ぎて左右に広々とした景色が広がってから。トンネルの中ではうるさく感じていた、ゴロゴロとにぎやかに鳴るチェーンの音が、耳障りでなくなった。雪化粧をしたリンゴ畑や遠くの街並みまで見渡すことができた。窓を少し開けて冷気に当たることもできた。すごく贅沢な気がした。
チェーンも悪くないと思った。